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【裳華房】 メールマガジン「Shokabo-News」連載コラム 
鹿野 司の“読書ノート”

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第21回 時代を振り返り、相対論のこれからに思いを馳せる

真貝寿明 著『ブラックホール・膨張宇宙・重力波』(光文社新書)

 特殊相対性理論と一般相対性理論、そしてアインシュタインの数々の業績というのは、子どもの頃からの科学ファンにとっては、ある種の特別な位置づけにあると思う。
 それは、まず間違いなく、思春期の頃に填りまくった経験があるに違いないってことだ。
 相対性理論は、大人になりかけて、世の中が解りはじめた時期に、本当に心引かれる単語なのだ。
 まず、アインシュタインという人物の天才性に魅了される。すでに伝説の人物として、こども向けの本などで読んで知っていたとしても、大人向けの詳しい伝記を改めて読んでみると、多方面にわたる発想の豊かさに舌を巻くことになる。読書好きなら、そこから相対論や量子論が作られていった、驚異的な発見が次々行われたあの時代の物語を、夢中になって読みあさるに違いない。
 そしてまた、適当な解説書などを読みながら、特殊相対性理論の理解に挑戦する。
 特殊相対性理論は、高校程度の学力で理解できる。エネルギーの保存と運動量の保存の式から等価原理を導くのも簡単だ。
 ただ、何よりも面白いのは、世界の見方ががらりと変わる感覚だ。それまで、当たり前だと思っていた素朴な世界観から離れて、時空が伸び縮みする奇妙な宇宙こそが、この世界の真の姿だったとわかるようになる。
 新しい認識にたどり着くのは簡単ではない。でも、難しすぎもしない。観測者が、本当に観測できるのは何なのかをしっかり考えると、確かにそうなると理解できる。
 まあ、そういう感動の数々は、後から振り返ると、一種の“中二病的”な感じなわけで、そんな熱もいつか冷めていく。そして、そのあとは、相対論に関係する本をあまり本気で読もうという感じにはなかなかならない。話題の本があれば斜め読みするくらい……。
 そんなわけで、『ブラックホール・膨張宇宙・重力波 〜一般相対性理論の100年と展開〜』は久しぶりに読んでみた相対論本だったのだが、これが非常に面白かった。
 書名の三つは、相対論から派生して現代も活発に研究されている最先端の話題だ。この本では、これら最先端に至るまでの道筋を、非常に見通しよく辿っていく。重要な概念一つにつき数ページ程度の、短く要領を得た解説で、非常に読みやすく理解しやすい。
 ブラックホールの研究でいえば、表面積と熱力学との対比から、ホログラフィック原理が考えられるようになり、4つの基本力のうち重力が極端に弱い秘密が余剰次元にあり、さらにブレーン宇宙の検証も手が届きそうなこと……。
 また、ところどころで語られる歴史的なエピソードもおもしろい。
 アインシュタインのノーベル賞は光電効果について贈られた。これを不思議に思う人は多いだろう。ノーベル財団は受賞後50年で選考過程を公開したが、それによると12年間に10回もノーベル賞の候補にあがっていたのに、ノーベル賞の選定委員に一般相対性理論の価値を評価できる人がおらず、たまたま光電効果を評価する人が出たことで、受賞が決まったという経緯が紹介されている。
 あるいは、キップソーンが監修した、映画『インターステラー』で表現されたブラックホールの映像について、なぜああいう姿に見えるかの解説などもある。
 今年(2015年)のノーベル賞を受賞した梶田隆章東大宇宙線研究所長が進めている「かぐら」プロジェクトでは2017年度から、世界最高水準の重力波望遠鏡が稼働して、アインシュタインの残した最後の宿題、重力波の観測に挑もうとしている。一般相対性理論100周年を迎えた今、時代を振り返りこれからに思いを馳せる、最高の材料を提供してくれる一冊だと思う。


【今回紹介した書籍】

◆『ブラックホール・膨張宇宙・重力波 〜一般相対性理論の100年と展開〜
  真貝寿明著/新書判/340頁/定価990円(本体900円+税10%)/
  2015年9月刊行/光文社新書/ISBN 978-4-334-03877-9
  http://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334038779

「鹿野 司の“読書ノート”」 Copyright(c) 鹿野 司,2015
Shokabo-News No. 319(2015-12)に掲載 


鹿野 司(しかのつかさ)さんのプロフィール】 
サイエンスライター.1959年愛知県出身.「SFマガジン」等でコラムを連載中.主著に『サはサイエンスのサ』(早川書房),『巨大ロボット誕生』(秀和システム),『教養』(小松左京・高千穂遙と共著,徳間書店)などがある.ブログ「くねくね科学探検日記


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