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「生物の科学 遺伝」2005年3月号(59巻2号)

特集 I :ヤンバルクイナに明日はあるか

特集にあたって −なぜいまヤンバルクイナか−

山岸 哲

 2004年9月23日,(財)山階鳥類研究所は「有楽町朝日ホール」でシンポジウム 「〜沖縄山原(やんばる)に生きる〜 ヤンバルクイナに明日はあるか」 を開催した

 私どもが,このシンポジウムを企画したのには大きな理由がある.それは,地元の一部の人たちは以前から知っていたとはいうものの,1981年に研究所の創設者・故 山階芳麿博士らがヤンバルクイナを新種として記載し,初めて広く世に知られるようになったからである.それ以来,研究所はこの鳥の生態研究を継続してきた.
 しかし,最近の研究結果によると,このまま手をこまねいていると,明らかに近い将来トキの二の舞いを演じる危険性があることがわかりつつある.このような現状に直面して,山階鳥類研究所は社会的使命として,ヤンバルクイナを絶滅から救うために本シンポジウムを企画した.

 本特集は,このシンポジウムで提供された話題をできるだけ忠実に再現し,ヤンバルクイナの現状とその保全についてまとめたものである.

 まず,ヤンバルクイナとはどのような鳥か知っていただくために,新種発表にたずさわった真野 徹氏に,この鳥の発見にまつわる話を記していただく.続いて,本研究所が行なってきた録音再生(プレイバック)法の分析結果から,本種の分布域が急激に減少していることと,その原因について尾崎清明氏に記していただく.
 つぎに,ヤンバルクイナの減少の大きな原因と考えられているノネコ・ノイヌ・マングースが山原の生態系に及ぼす影響について,伊沢雅子氏に書いていただく.また,個体数減少の要因の一つとして見過ごせない,本種の交通事故死の実態について小高信彦 氏から紹介してもらう.
 そして最後に,グアム島に侵入したナンヨウオオガシラというヘビによって,21羽にまで減ってしまったグアムクイナを復活させるために20年間活動してこられたポール・ウェニンガー氏に,ヤンバルクイナとの関連において語っていただくことにす る.ウェニンガー氏のお話は,当日通訳をしてもらった百瀬 浩氏に再構成していただいた.
 それに続いて,シンポジウムの総合討論を簡略にまとめてみた.発言されたすべてを収録できたわけではないが,現在ヤンバルクイナが直面している問題点が,かなり浮き彫りにされていると思う.

 この特集によって,「ヤンバルクイナを守るために,私たちは今何をするべきか」が提案されれば望外の幸せである.

助成:河川環境管理財団の河川整備基金/共催:朝日新聞社/後援:環境省・文化庁・沖縄県・我孫子市・国頭村・大宜味村・(財)世界自然保護基金ジャパン・(財)日本自然保護協会・(財)日本野鳥の会・(財)日本鳥類保護連盟・日本鳥学会・ヤンバルクイナを守る獣医師の会)

(やまぎし さとし,財団法人 山階鳥類研究所所長)

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