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裳華房 今月の話題

ニュートリノ観測装置 「カムランド」

(2002.2.1)

 物質を構成している最小の粒子(素粒子)には,原子核の陽子や中性子を構成する粒子(クォーク)と,電子やニュートリノのような軽粒子(レプトン)があります.
 これまでの(素粒子)物理学では,ニュートリノの質量はゼロとして理論が構築されてきました.したがって,もしニュートリノに質量があることが確実になると,これまでの仮定がくつがえされ,物理学に大きな変革をもたらすことになります.

 このニュートリノを観測する装置として,東京大学宇宙線研究所の「スーパーカミオカンデ」(神岡宇宙素粒子研究施設)があります.1998年には世界で初めて,ニュートリノ振動の強い証拠を見つけることに成功しました.このニュートリノ振動が見つかるということは,ニュートリノが質量をもっていることを意味します.
 この 日本が世界に誇るスーパーカミオカンデ.新聞・テレビなどでも大きく報道されたとおり,昨年11月12日,センサーとなる光電子増倍管の約60%が数秒間で破壊されるという事故が起こってしまいました.現在,ニュートリノの観測は中止されており,一日も早い復旧と観測の再開が望まれています.

 一方,東北大学ニュートリノ科学研究センターが,スーパーカミオカンデの前身「カミオカンデ」の跡地に建設していたニュートリノの観測装置「KamLANDKamioka Liquid scintillator Anti-Neutrino Detector)」(カムランド)が,今年1月22日より,正式に観測を開始しました.

 このカムランドは,直径13mの“巨大な風船”を利用して,近隣の原子力発電所で発生する低エネルギーのニュートリノを観測します.内側に光電子増倍管を1800個取り付けた直径19mのタンクのなかに浮かぶ“風船”には,ニュートリノが陽子と衝突すると発光する特殊な油「液体シンチレータ」が満たされており,スーパーカミオカンデよりも3桁低いエネルギーのニュートリノを検出することができます.

 敦賀や柏崎の原子力発電所からの反ニュートリノを検出してニュートリノの質量を測定したり,超新星爆発にともなう反ニュートリノの検出,宇宙の90%以上を構成するといわれるダークマターの検出と解明,太陽ニュートリノの検出による「消えた太陽ニュートリノの謎」の解明,そして地球内部に存在する放射性物質から生成される反ニュートリノの検出と地球内部エネルギー量の解明,などさまざまな目的で観測が行われる予定です.


● 関連Webサイト

KamLAND(カムランド)

東北大学ニュートリノ科学研究センター

スーパーカミオカンデ(神岡宇宙素粒子研究施設)

東京大学宇宙線研究所

宇宙ニュートリノ観測情報融合センター


● 関連書籍

ニュートリノと重力波日本物理学会 編,裳華房

謎の粒子 ― ニュートリノ (川崎雅裕 著,丸善

ニュートリノの謎 (長島順清 著,サイエンス社

※注 ここに取り上げたものは関連書籍のごく一部です.



         

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