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裳華房 今月の話題

CP対称性の破れ,直接観測に成功!

(2002.4.1)

★ 小林・益川理論の検証 さらに進む

 宇宙の初期では,物質と反物質が同じ量だけ作られたと考えられていますが,現在の宇宙にはなぜか反物質の姿はなく,物質だけが存在しています.どうしてこのようなことが起こったのかという謎を解くカギと言われているのが,小林誠(現在,高エネルギー加速器研究機構=KEK)・益川敏英(現在,京都大学基礎物理学研究所)の両氏が提唱した,「小林・益川理論」と呼ばれているものです.

 自然界にはCP [C:charge (電荷), P:parity (空間反転に関する性質)] 対称性の破れと呼ばれる性質があって,この性質のために,現在の宇宙からは反物質が消えてしまい物質だけが残ったと考えられていますが,この破れを説明する「小林・益川理論」の検証に,日米のグループ(日本ではKEK)が精力的に挑んでいました.
 昨年(2001年)7月6日に,アメリカのスタンフォード大学の線形加速器センター(通称SLAC)が99.997%の確率で破れの存在を確認と発表.続いて7月23日には,KEKを中心とする国際グループが,99.999%の確率で,この理論の通り,CP対称性が破れているとの実験結果を発表していました.

 そして,先月(3月)の11日,KEKは加速器で生み出した大量のB中間子の生成崩壊の様子をBELLE測定器で観測し,崩壊において粒子と反粒子の性質の違いがあるのかどうかを調べる実験を行った結果,B中間子よりも反B中間子の方が約4:3の割合で壊れやすい(つまり,反粒子は自然界に存在しにくい)ことを直接確認することに成功しました.(KEKによるプレスリースはこちら

 中学・高校生の皆さんに,ちょこっとメッセージ

 物理学の目的は,この自然界に現れる様々な現象を観察して,その背後に潜んでいる法則を見つけ出し,それを理論的に体系づけて,さらにそれによって,その法則の先に広がる未知の世界を予測し,解明していくことにあります.物理学は,本当に面白くてワクワクする学問です
 中高生の皆さん,高校で物理を取らないなんて言わないで,ぜひ学んで物理の面白さに触れてみてください.そして,その先には,いまだ発見されずに自然界に潜んでいる美しい法則たちが,君たちに発見されるのを待っています.

◎ 最新情報はこちらから

高エネルギー加速器研究機構 (KEK)

BELLE ホームページ

スタンフォード大学線形加速器センター(SLAC)

◎ 関連書籍

・『クォーク・レプトン核の世界(江尻宏泰 著,裳華房

・『消えた反物質(小林 誠 著,講談社ブルーバックス

・『はたして神は左利きか?(山田克哉 著,講談社ブルーバックス

・『いま、もう一つの素粒子論入門(益川敏英 著,丸善

※注 ここに取り上げたものは関連書籍のごく一部です.



         

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