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裳華房 今月の話題

気象衛星

(2002.10.01,更新10.17)

 10月1日現在,非常に大型の台風21号が東日本に接近しており,関東を直撃した場合には,戦後最大級の強さの台風ということで,気象庁では警戒を呼びかけています.

 このような台風をはじめとする気象観測に欠かせないのが気象衛星です.

 気象衛星は,高度約3万6000kmの静止軌道上から地上を観測した画像データを送信しています.日本では,1995年3月にH-IIロケット3号機によって「ひまわり5号」(GMS-5)が打ち上げられ,同年6月より気象庁によって運用が開始されました.
 日本の天気予報に大いに活躍するだけでなく,世界気象機関(WMO)が進める世界気象監視計画において,世界の気象を観測する5個の静止気象衛星の一つを担ってきました.

 「ひまわり5号」は,可視光と赤外線の両方による撮影を可能としています.
 「ひまわり5号」による画像は,北極から南極までを赤道と平行に帯状に分割して撮影するもので,2500枚の画像を並べると静止軌道から見た地球の画像となります.ただし,撮影に時間を要するため,南北で約25分の時差があります.そのため,日本付近の画像も厳密には南北で時差が生じていますが,ほとんど無視してよい範囲のものです.

 その「ひまわり5号」の燃料が残りわずかとなり,運用が厳しい状態になっています.

 静止軌道といっても,地球が完全な球対称ではないために,実際には重力場の大きさに違いがあり,何もしなければ重力ポテンシャルの低い方へと流されていきます.また太陽や月の引力の影響によっても軌道がふらつきます.
 したがって,静止衛星では,ごく低推力のスラスター(エンジン)を噴かし続けることによって,その位置や姿勢を厳密に保っています.静止衛星(気象衛星や通信衛星)などの寿命が切れるといった場合には,このスラスターの燃料が切れることを意味しています.

 「ひまわり5号」の設計上の寿命は2000年3月でしたが,後継の予定であった運輸多目的衛星(MTSAT)が1999年11月に打ち上げに失敗したため,その後も利用されてきました.
 新しいMTSAT-R1は,来年2003年の夏にH-IIAロケットによって打ち上げられる予定で,無事に打ち上げられたとしても,その運用は2003年末になります.

 「ひまわり5号」の燃料の残りは5〜6キロと計算され,後継機の新MTSATに場所を譲って軌道を離脱させるために4キロ程度の燃料が必要なため,余裕はほとんどない状態となっています.
 このため,燃料を多く使用する南北方向の位置修正は行わず,赤道上空で8の字を描いて飛行をつづけていますが,一部の観測をやめたり,アンテナの方向があわないために映像の画質が低下するなどの影響が出ています.

 気象庁では,代役となる気象衛星として,アメリカの「GOES(静止運用環境衛星)9号」の利用を予定しています.
 予定では,今年12月より東太平洋上空から西への移動をはじめて,「ひまわり5号」の東側,パプアニューギニア付近の上空に待機させて,「ひまわり5号」の不調に備えることになっています.
(GOES9号による支援の概念図は,気象庁10/16発表の報道資料をご参照ください)

 しかし,この「GOES9号」衛星も,すでに2000年5月に設計寿命の5年を過ぎています(衛星が「ひまわり」よりも大型のため,燃料には多少の余裕があります).
 「GOES9号」衛星の準備が整う前に「ひまわり5号」が壊れたり,両方の衛星ともに使用不能になった場合には,「NOAA」衛星の映像を使用することになりますが,この衛星は地球を南北にまわる極軌道のため,6時間に1回の観測となり,観測回数が大幅に減って,台風の観測などに支障が出る恐れがあります.

 気象衛星による観測は,明年のMTSAT衛星の打ち上げが成功するまで,綱渡り状態が続くようです.


● 関連Webサイト

気象庁

  ・報道発表資料 「米国の静止気象衛星による「ひまわり5号」のバックアップについて
    (2002/10/16,PDF形式)

  ・報道発表資料 「米国の静止気象衛星による「ひまわり5号」のバックアップについて
    (2002/5/10,PDF形式)

  ・気象研究所

日本気象協会

  ・ひまわり5号 日本付近の画像
  ・ひまわり5号 World View
  ・防災気象情報サービス(ひまわり)

ウェザーニューズ・オンライン

  ・気象衛星ひまわり画像

宇宙開発事業団

  ・ひまわり(GMS)のサイト
  ・ひまわり5号の実験システム
  ・フォトライブラリー(ひまわり5号)

YAHOO!天気情報/ひまわり動画


熱帯降雨観測衛星5周年記念国際シンポジウム
 「宇宙から見た地球環境 −水循環観測を中心にして−


気象情報頁高知大学 菊地研究室

気象衛星について神戸海洋気象台


アメリカ海洋大気庁

  ・GEOS Satellite

GOES 9号による観測画像NASAゴダード宇宙飛行センター


日本気象学会

世界気象機関(WMO:World Meteorological Organization)


宇宙開発事業団 地球観測センター

地球観測フロンティア研究システム


作製に際しては,上記各サイトの他,2002/9/8の朝日新聞記事などを参考にさせていただきました.



         

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