電波輝線放射(Radio Line Emission)
<体験版>

電波の領域で輝線(line)を放射するメカニズムには, 原子や分子の状態変化に伴うスペクトル線, メーザー放射,中性水素原子の21cm線などがあります.

原子から放射される輝線

再結合線

原子はとびとびのエネルギー状態しかもてません. 原子が,高いエネルギー状態から低いエネルギー状態へ変化するとき, エネルギーの差に相当する特定の波長の輝線(line)が放射されます.
電波の領域では,電離した水素などが電子と再結合したときに放射される 再結合線(recombination line) が重要です.
水素原子のスペクトル線
水素のエネルギー準位
鉄原子のモデル
降着円盤の線スペクトル

一酸化炭素COの振動遷移

一酸化炭素COの回転遷移

水分子H2Oの振動遷移

水分子H2Oの回転遷移

分子線(振動遷移と回転遷移)

複数の原子が結合してできた分子は, 結合軸のまわりに振動(vibration)したり 回転(rotation)したりすることができます. その振動状態や回転状態が量子力学的に変化するとき, 線スペクトルを放出・吸収します. これが分子スペクトル線です.

たとえば,代表的な2原子分子である一酸化炭素COは, 炭素原子()と 酸素原子()が結合しています. この一酸化炭素は,結合軸方向に振動しますが, 高振動状態が低振動状態に遷移するとき, 結合軸に垂直方向に電磁波を放射します. また一酸化炭素は,結合軸に垂直な方向を軸として回転しますが, 高速回転状態が低速回転状態に遷移するとき, 回転軸と垂直方向に電磁波を放射します.

このような振動エネルギー遷移や回転エネルギー遷移を表すのに,
CO (v = 2-1) COの振動遷移の準位2から1
CO (J = 2-1) COの回転遷移の準位2から1
のように表します.

直線分子のスペクトル輝線
分子COCSHCN
回転遷移振動数[GHz]
J =1-0115.271248.991688.6319
J =2-1230.542497.9832177.2638
J =3-2345.8136146.9748265.8958

代表的な3原子分子である水分子H2Oも, 振動遷移や回転遷移によって電波を放出します.

オリオン分子雲の一酸化炭素輝線マップ

2原子分子の振動エネルギー準位と回転エネルギー準位の模式図. 青い曲線は基底状態にある電子のエネルギー準位を表しています. 緑色の横棒が分子の振動エネルギー準位を, 赤色の横棒が回転エネルギー準位を表しています.

振動遷移 回転遷移

アンモニア分子の反転遷移

分子線(反転遷移)

アンモニア分子のような立体的な分子の場合は, その構造が反転することによって電磁波(電波)を放射します.
アンモニア分子NH3は, 窒素原子()と 水素原子()が, 四面体の形に結合しています.

赤色レーザー光

メーザー線

原子あるいは分子を,何らかの方法によって, エネルギーの高い状態に大量に押し上げておくことができれば, 適当な電磁波の刺激によって, エネルギーの高い状態から低い状態に雪崩的な遷移が起こり, きわめて強い電磁波の放出を起こすことができます.
このプロセスは, マイクロ波領域では,誘導放射のマイクロ波増幅 (microwave amplification by stimulated emission of radiation)の頭文字を取って, メーザー(maser) と呼ばれます.
天体からは,水H2O,水酸基OH,メタノールCH3OH, 一酸化ケイ素SiOなどを起源とするメーザーが発見されており, 赤色巨星,星形成領域,ブラックホール周辺の 降着円盤で発生していると考えられています.

メーザー放射の詳しい説明

中性水素原子HIの超微細構造遷移(水素21cm線)の概念図:その1

中性水素原子HIの超微細構造遷移(水素21cm線)の概念図:その2

中性水素ガスの分布

中性水素21cm線

水素原子は一個の陽子とそのまわりを回る一個の電子からできてますが, 陽子や電子のような素粒子にはスピンと呼ばれる量子力学的な性質があります. 素粒子が自転しているわけではないのですが,スピンには2種類の状態があり, 上向きスピン下向きスピンと呼ばれています.
水素原子の場合,そういうミクロの状態で見ると, 上向きのスピンを持った陽子のまわりを“上向き”のスピンを持った電子が回っている水素原子とか, 上向きのスピンを持った陽子のまわりを“下向き”のスピンを持った電子が回っている水素原子とかがあるのです.
ときたま、上向き陽子+上向き電子の状態にある水素原子が, 上向き陽子+下向き電子の状態に変化することがあり, このことを超微細構造遷移と呼んでいます. (上向き+上向き)状態と(上向き+下向き)状態では, 前者の方がエネルギーがわずかだけ大きいために, この超微細構造遷移が起こると余剰のエネルギーを電波の形で放射します. この余剰のエネルギーの大きさは決まっていて, 出てくる電波の波長も21cmという特定の波長になります.

波長λ=21.106114cm
振動数ν=1420.40575MHz
この電波領域のスペクトル線を中性水素21cm線と呼んでます.
一個一個の水素原子でみれば,このような変化の起こる確率は非常に小さいのですが, 宇宙には水素ガスは大量にあるために, 全体としては,放射される21cm電波の強さは地球でも受信できるくらいの結構なものになります. こういう水素原子の出す電波を調べることによって, たとえば銀河系の中に存在する水素ガスの分布なども調べられるのです.

銀河系の中性水素ガス分布

電波領域の主な線スペクトル
種類観測される原子・分子波長域
原子 再結合線H,He,C,S電波全領域
超微細構造線H21cm
分子 回転遷移線CO,HCN,H2O,他主にミリ波
反転遷移線NH31.2cm〜1.3cm付近
メーザーH2O,OH,SiO,他主にサブミリ波


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