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 環境ホルモンとダイオキシン(彼谷邦光 著,裳華房,2004) 
おわりに

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『環境ホルモンとダイオキシン』 カバー  最近,「環境ホルモンやダイオキシンはヒトにとってそれほど有害ではないから,基準を緩和すべきである」という見解が出ています.この考え方は,ヒトの健康を対象にした公衆衛生学に立脚したものといえましょう.
 環境科学では,「ヒトも地球生態系の一員であり,生態系の維持なくしてヒトの持続的な生存はありえない」という考えに立脚しています.国連や多くの国際機関が「生物多様性の維持」や「絶滅危惧生物の保護」を提唱しているのも,「ヒトも地球生態系の一員」と考えているからです.そして,環境汚染物質に対しては,もっとも弱い生物を基準に許容濃度を決めるべきであると考えています.

 ミジンコなどの甲殻類,二枚貝や魚類は,ヒトに比べれば環境ホルモンに対してとても敏感です.ヒトが影響を受けない濃度の1000分の1程度で奇形が発生します.これらの生物がいなくなると,これらを餌としている生物もいなくなり,生態系は崩壊の方向に進んでいきます.やがて,ヒトだけが地球上に残ることになるでしょう.
 環境ホルモンの影響をミジンコやメダカを用いて調べているのは,化学物質に弱い生物の許容基準を調べるためなのです.「ヒトに影響がない環境汚染物質でも,ヒト以外の生物に影響があれば,やはり問題とすべきである」ということになります.

 しかし,反対意見もあります.イタリア・セベソのダイオキシン事故で,ヒトの死亡は報告されていませんが,多くの家畜やネズミ,ミミズなどが斃死しました.この結果を「だからダイオキシンの毒性は高くない」とするか,「だからダイオキシンの毒性は強い」とするか,どちらの考えをとるかでしょう.

 2006年からEUでは,REACHというプログラムが始まります.これは,毒性が疑われる化学物質をいったん禁止にし(ヒトの血液中から検出される500種類近い化学物質が最初の禁止物質になるようです),安全が確認された物質から再度,使用を許可するというものです.おそらく,安全の確認は不可能でしょう.現在,安全性を評価できる完璧な試験法はないのですから.
 今後も化学物質の危険性(risk)と利便性(benefit)の議論は続きそうです.

 最後になりましたが,本書の企画,図表の追加など多くの作業をしていただいただけでなく,数度にわたる査読と注釈を加えていただきました裳華房 編集部の國分利幸氏に心から感謝いたします.

彼谷邦光


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