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【裳華房】 メールマガジン「Shokabo-News」連載コラム 
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第54回 微分方程式の魅力

吉田耕作 著『微分方程式の解法』(岩波書店)

『微分方程式の解法』 「微分方程式の解の一意性っていうのはね,めちゃくちゃ強い性質なんですよ」

 これは私が大学2年生のとき,微分方程式の入門講義を担当しておられた数学教員の先生が,講義の中で語られた言葉である.
 その先生は時々“含蓄ある発言”をされる方で,「微分方程式に“解がある”ということと,“解ける”ということと,“解く気が起こる”ということは,全然ちゃいますからね」等とひょうきんな口調で語っておられた姿がとても印象に残っている.
 ともかく,「めちゃくちゃ強い」という表現が気に入った私は,「そこまで言うのなら調べてやろうじゃないか」と思い立った.しかし,微分方程式の入門書は世にあふれており,「めちゃくちゃ強い」ことに納得できるような,“これだ”という本にはなかなか出会えない.そうした中で偶然辿り着いたのが,この『微分方程式の解法』であった.

 本書は,解析学の権威・吉田耕作氏による,微分方程式の本格的入門書である.「解法」と銘打たれているが,いわゆる“微分方程式の解き方の覚書”の類ではなく,厳密な解析的議論がしっかりとなされており,どちらかというとかなり理論寄りである.
 冒頭でまず,簡単な形の微分方程式について,その意味するところを考察した上で,解の存在と一意性定理の厳密な証明が示されている.その後,膨大な微分方程式の具体例とその解き方を挙げていき,さらには摂動論,偏微分方程式にまで相当量のページを割いている.それでいて全体の分量が300頁ほどという,まるでドラ○もんの四次元ポケットのような一冊である.

 私はこの本を,近所の古書店でたまたま発見して手に入れた.私が購入したのは1954年の初版のもので,B6判上製に角背という特徴的な見た目に,なんとも奇異な印象を抱いたことを記憶している.
 しかし見た目よりもさらに驚いたのは,本文の文字使いであった.1954年当時の文章そのままということで,漢字がすべて旧字体なのである.「曲線上の點(点)」「函數(関数)」「圖(図)に示す」――中でも本文最初の単語「獨立變數(独立変数)」のインパクトは圧倒的であった.改めて表紙をよく見ると,タイトルの「微分方程式」の「微」も旧字体になっており,購入の際に全く気が付かなかった自身の注意力のなさにいちばん驚いてしまう.
 『微分方程式の解法』は1978年に第2版が刊行されて以降品切れ状態であったが,2015年にオンデマンド出版で復刊したようである.私が初版を購入した1年後の話であり,タイミングの悪さに何ともいえない気分になる.
 念のために付記しておくが,本の中身そのものは非常に本格的な微分方程式論であり,先生がおっしゃった通り解の一意性が「めちゃくちゃ強い」ことがわかる内容となっている.微分方程式の世界に魅力を感じるが,漢字の歴史には興味がないという方は,ぜひオンデマンド版をお読みいただければと思う.(編集者Y)

【今回ご紹介した書籍】
岩波オンデマンドブックス 微分方程式の解法 第2版』
  吉田耕作 著/B6判/322頁/定価5280円(本体4800円+税10%)/2015年6月刊行/
  岩波書店/ISBN 978-4-00-730220-6
  https://www.iwanami.co.jp/book/b266775.html


「裳華房 編集子の“私の本棚”」 Copyright(c) 裳華房,2018
Shokabo-News No. 344(2018-5)に掲載 



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