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裳華房 今月の話題

ハッブル宇宙望遠鏡のカメラ交換

(2002.3.1)

 ハッブル宇宙望遠鏡HST:Hubble Space Telescope)は,その名前の通り,宇宙に浮かぶ望遠鏡です.

 ハッブル宇宙望遠鏡は,1990年4月,スペースシャトル・ディスカバリー号(STS-31)によって,高度600kmの低地球衛星軌道上に投入されました.宇宙空間に設置された史上初の可視光望遠鏡です.
 宇宙望遠鏡科学研究所(STScI:Space Telescope Science Institute)によって運用され,宇宙が膨張することを確認した天文学者エドウィン・ハッブル(Edwin Hubble)にちなんで命名されました.

 本体の全長は13.4m,胴体部の直径は4.3m,重量は11トンという巨大な望遠鏡です.
 きわめて高精度に磨き上げられた有効口径2.4mの主鏡をもち,3つのカメラ,2つの分光計と高精度の追尾センサーが備え付けられ, 0.1秒角もの高分解能で天体画像を撮影できます(地上では0.5秒角が限度).
 2.4mの主鏡は,大気の揺らぎのない宇宙空間から,さまざまな星や銀河,宇宙の最深部を観測しています.

 運用当初は,主鏡の球面収差(鏡に反射した光が焦点を結ばないこと)のために,いわゆる“ピンボケ”した画像しか得られませんでしたが,1993年12月のスペースシャトルのミッションで補正光学系が取り付けられ,また主装置のカメラも広視野/惑星カメラ2(WF/PC2)に交換されました.
 それ以降の活躍は,改めて述べるまでもなく,書籍や雑誌,各種の報道などでご存知のことと思います(下記の関連書籍のサイト参照).

 このハッブル宇宙望遠鏡に,今月,新しいカメラが取り付けられます.

 2002年3月1日に打ち上げが予定されているスペースシャトル・コロンビア号(STS-109)によるミッション(Servicing Mission 3B for the HST)では,太陽電池パネルや撮像用フィルター,配電装置の交換のほか,いままで主カメラとして活躍してきたWF/PC2にかわって,ACS(Advanced Camera for Surveys)と名付けられたカメラが取り付けられます.  当初2/28の予定が強風のため延期.
 このACS,従来のWF/PC2に比べて,約10倍ほど解像力が高く,また観測できる波長域も,紫外線の一部から可視光線,そして近赤外線の一部までと広範囲にわたっています.
 この新しいカメラACSによって,これまでは直接に観測することができなかった太陽系の近くにある惑星の直接撮像や,より遠くの宇宙,生まれたての銀河の姿などをとらえることが期待されています.

 ハッブル宇宙望遠鏡は,来年2003年7月にも新たなカメラ(WFC4)等の取り付けが予定されており(Servicing Mission 4),運用を終了して回収される2010年までの間,いままで以上に驚異的な天体画像の数々を私たちにとどけてくれることでしょう.今後の活躍に大いに期待したいと思います.

 

関連サイト
(いずれも英語)

NASA(アメリカ航空宇宙局)

Hubble Space Telescopeのサイト
Servicing Mission 3Bのサイト
Servicing Mission 4について

スペースシャトルのサイト
STS-109のプレスキット等

Next Generation Space Telescope(NGST)のサイト
  NGSTは2009年に打ち上げが予定されているNASAの新しい宇宙望遠鏡です.

宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)

Hubble Space Telescopeのサイト
今回のミッションに関するプレス・リリース
  “New Instrument Package to Expand Space Telescope's Vision”

“Hubble Telescope's New Vision”
 SPACE.comに掲載された,今回のミッションに関する記事.


関連書籍・CD-ROM

● 『宇宙スペクトル博物館<可視光編> 天空からの虹色の便り
  粟野諭美・田島由起子・田鍋和仁・乗本祐慈・福江 純
     定価4950円(本体4500円+税10%)/裳華房

 “可視光”とは何かから,身近な色彩や風景,カメラや望遠鏡など光学機器とその仕組み,そして可視光や近赤外線がとらえた星や星雲・星団・銀河などさまざまな天体の姿を紹介する,マルチメディアCD-ROM博物館.
 ハッブル宇宙望遠鏡(HST)についての解説や,HSTがとらえた多数の画像データを収録しています.

● 『HSTハッブル宇宙望遠鏡がとらえた宇宙
  『HSTハッブル宇宙望遠鏡がとらえた宇宙2

 沼澤茂美・脇屋奈々代 共著/各 定価各3300円(本体各3000円+税10%)/誠文堂新光社

 ハッブル宇宙望遠鏡(HST)によるさまざまな天体画像を解説つきで紹介.

● 『ハッブル宇宙望遠鏡 −150億光年のかなたへ−
 エレイン・スコット 著/定価2420円(本体2200円+税10%)/筑摩書房

 1993年の修理ミッションの詳細から,画期的な発見の数々と成果までを解説.

● 『カラー版 ハッブル望遠鏡が見た宇宙(岩波新書499)
 野本陽代・R.ウィリアムズ 著/定価1034円(本体940円+税10%)/岩波書店

 人気の高い画像の紹介から,修理ミッションに至るまでの苦難の日々,またHSTによる太陽系の天体や星の一生までを解説.

● 『カラー版 続 ハッブル望遠鏡が見た宇宙(岩波新書691)
 野本陽代 著/定価1034円(本体940円+税10%)/岩波書店

 前巻を刊行して以降の3年半にとられた新しい画像を中心に解説.

● 『ハッブル宇宙望遠鏡画像集 驚異の宇宙
 山岡 均 著・アストロアーツ 編/定価4620円(本体4200円+税10%)/アスキー

 CD-ROM付き画像集.約300枚のHST天体画像を収録.

● 『生れたての銀河を探して −ある天文学者の挑戦− (ポピュラー・サイエンス 220)
 谷口義明 著/定価1650円(本体1500円+税10%)/裳華房

 第3章では,HSTによって初めて可能になった,生れたての姿をとどめる遠くの宇宙,遠くの銀河の観測等について解説します.

● 『不思議な銀河の物語 −銀河は例外をつくらない− (ポピュラー・サイエンス 219)
 谷口義明 著/定価1650円(本体1500円+税10%)/裳華房

 HSTなどがとらえた不思議で奇妙な形をした銀河について紹介します.



         

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