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【裳華房】 メールマガジン「Shokabo-News」連載コラム 
裳華房の“古書”探訪(23)

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富永齊 著『無機化學總論』[初版 大正15年]

 今回ご紹介するのは、(確認できる範囲で)裳華房で最初に刊行された無機化学の教科書、富永齊著『無機化學総論』です。
 裳華房における化学分野の書籍として、分析化学については大正7年に松井元興著『分析化学』が(本連載第2回参照)、有機化学については同じく松井元興著『有機化學講義』が大正11年3月にそれぞれ刊行されておりましたが、『無機化學總論』はその4年後の大正15年(1926年)4月の刊行です。
 書名に「総論」とあるように、本書と対になる『無機化學各論』が同年6月に発刊されています。

 本書は「自序」にあるように、著者が旧制第一高等学校(現在の東京大学教養学部等の前身)の第2学年対象の講義での教授資料を元に執筆されたもので、当時の高等学校用の教科書・参考書として発刊されました。

 主要目次は下記の通りです。

壱章 原子の構造
 緒論/元素と化合物/週期律/放射能/原子の構造
弐章 分子の實在状態 
 相律/氣相/液相/固相/一成分系に於ける相の平衡/二成分系/膠質
参章 分子の構造 
 化合物の種類
四章 物質の變化又は化學反應 
 化學反應と熱エネルギー/化學反應と電氣エネルギー/化學反應と光エネルギー

 当時の授業構成については不明ですが、現在の「物理化学」とほぼ同じ構成となっております(時代状況的に量子化学や化学結合に関する部分がほとんどありませんが)。
 本書全体で318頁と「総論」としてはかなり“厚め”の本ですが、記述自体は丁寧に分かりやすく解説されており、また随所に実験的な数値が記載される等、いわゆる「基礎化学」の学習としても利用できるように書かれています。

 続刊『無機化學各論』では、周期律表の分類にしたがって各元素の記載的な事項が述べられていますが、目次は下記になります(章タイトルのみ)。

 稀瓦斯類/水素/ハロゲン族元素/酸素族元素/窒素族元素/炭素族元素/硫黄族元素(土金属)/アルカリ土金属元素/アルカリ金属/鐵族及白金族元素/マンガン/クロム族元素/ヴアナジウム族元素/ゲルマニウム族元素/ガリウム族元素/亞鉛族元素/銅族元素

 著者の富永齊については、調べがつかずに生没年などは不明です。
 旧制第一高等学校で教鞭をとられながら北海道帝国大学理学部の創設(昭和5年;1930年)に尽力され、同大学理学部化学科の初代教授に就任。昭和9年からは、『化学本論』で著名な片山正夫の後任として、東北帝国大学理学部化学科(物理化学)の教授として活躍されました。同大学硝子技術員養成所所長、理学部長なども歴任されています。
 刊行に至る経緯も不明ですが、本連載第17回でご紹介した鮫島實三郎(大正12年まで東北帝国大学教授)との“縁”によって、裳華房から本書を刊行されたのではないかと推測されます。

 なお、『無機化學總論』『無機化學各論』ともに全文(一部欠落頁あり)国立国会図書館のデジタルコレクションにて一般公開されています。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/931354
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/931355


◆富永齊 著『無機化學總論』
  菊判/318頁/初版 大正15年(1926年)4月/裳華房

☆記述の誤りなど,お気づきの点がありましたら m-list@shokabo.co.jp まで御連絡ください.


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