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裳華房 今月の話題

火山島の自然

(2002年9月2日/10月2日更新)

 このところ,火山島の噴火のニュースが続いています.

 なかでも大きく取りあげられ,記憶に強く残っているのは,三宅島の噴火でしょう.
 三宅島では2000年7月8日に噴火が始まり,火山ガスなどの影響が沈静化しないため,同年9月上旬から全島民避難の事態が続いています.

○ 三宅島火山活動をめぐるニュース
  ・読売新聞   ・毎日新聞   ・YAHOO! NEWS   ・Lycosニュース

○ 三宅島関連サイト
  ・気象庁   ・国土地理院   ・東京都
  ・産業技術総合研究所 地質調査総合センター

 そして,8月11日には伊豆諸島の鳥島で,19日には鹿児島県の諏訪之瀬島で噴火活動が確認されました.

鳥島のニュース (朝日新聞 8月12日)
諏訪之瀬島のニュース (朝日新聞 8月19日)
諏訪之瀬島の観測桜島火山活動研究センター 桜島火山観測所

 長い時間のスパンでみれば,噴火活動は,火山島ではある期間をおいて繰り返されている自然現象といえます.しかしながら,短期的には,自然や人の生活にさまざまな影響を及ぼす大きな要因となります.
 

 三宅島の噴火活動については,ざまざまな調査団が調査を行い,いくつかの雑誌等で報告がなされています.

特集 「三宅島の自然は いま (雑誌『生物の科学 遺伝2002年9月号 最新号
最近の雑誌などの報告一覧へ

 「バードアイランド」と呼ばれ親しまれてきた三宅島では,いま鳥類はどのように暮らしているのでしょうか?
 2001年の2月以降,三宅島の自然の調査を続けておられる東京大学大学院 農学生命科学研究科の樋口広芳 教授にお伺いしてみました.

 今回の三宅島の噴火は,2000〜3000年に一度起こると考えられるような,従来とは大きく異なる様式のものであった.噴火は山頂部で起こり,火口は大きく陥没し,大量の火山灰を噴出する大規模な噴火が2か月ほども続いた.そして,現在も多量の火山ガスを放出し続けている.

 多量の火山灰や火山ガスは,樹木に対し,枯死や落葉などの大きな被害を与えた.
 陸に住む鳥類は,食物を森林に多く依存しているため,直接的な被害だけではなく,植生崩壊を通じた間接的な被害による個体数の減少が心配された.
 一時は貧弱になった鳥相であったが,現在では,島の350〜400mより下の地域の植生はかなり回復し,そのような場所では,噴火前とほぼ変わりのない種類・個体数の鳥類がみられるようになってきている.代表種アカコッコでは,噴火後に,付近の神津島などに避難していたらしいことを示唆するデータも得られている.
 避難し戻ってきた鳥たちがいる一方,その生息地が完全に失われてしまった鳥たちもいる.ウチヤマセンニュウなど草原性の鳥類が多く生息していた山頂部,八丁平の湿原は,火口の陥没により消失してしまった.

 今後の不安要因は,今も噴出の続く火山ガスによる被害の拡大である.ガスの影響がある地域では,一度芽を吹きかえした樹木が,また落葉を起こしている.
 しかし,いずれは噴火活動も終息し,三宅島の自然はもとの姿へと戻っていくことだろう.

(コメントの詳細は,雑誌 『生物の科学 遺伝』 2002年9月号最新号)の特集記事をご参照ください)
 

 また,鳥島での噴火で心配される,同島を主な繁殖地とする特別天然記念物“アホウドリ”への影響はどう考えられるのでしょうか?
 鳥島アホウドリの保護・研究の第一人者である,東邦大学 理学部 生物学教室の長谷川 博 助教授にお話を伺いました.

 今回の噴火は,アホウドリが島にいない非繁殖期に起こったため直接の被害は免れ,現時点ではいくつかの要因から考えて,その存続に関して心配は少ないだろう.
 その要因とは,まずアホウドリが長寿命であり,海で採食する海鳥であるため餌資源には問題がないであろうこと.
 そして,これまでの保護増殖努力もあって,アホウドリ集団の大きさが推定総個体数1400羽まで増加しており,第二の繁殖地,尖閣諸島でも個体数が増加していることも安心材料のひとつである.繁殖前の若鳥にとっては,この噴火が新たな繁殖地の拡大を促す積極的な要因となるかもしれない.
 また,アホウドリには,1939年の噴火時には100羽以下であったにもかかわらず,営巣地の破壊にも耐えて生き延びてきたという歴史もある.

(コメントの詳細は,雑誌 『生物の科学 遺伝』 2002年11月号(10/25発売予定)のトピックスでお伝えします)

大アホウドリ先生の研究簿
サントリー・アルバトロス募金

 長谷川先生からは,鳥島が噴火で沈んでしまわない限り,少し足踏みしたとしても,その復活への歩みは止まることはない,との強いお言葉をいただきました.

 人は,噴火がおさまるのを待つしかありません.
 しかし,そこから回復していく自然の力強さを科学の目で見守っていくことは,火山島の自然のあり方,その中での人の暮らしのあり方を考えるかけがえのない材料になることでしょう.


三宅島の噴火活動に関する雑誌などでの報告(最近のもの)

特集 「三宅島の自然は いま
  (雑誌『生物の科学 遺伝2002年9月号 最新号裳華房

  → 「特集にあたって」が読めます

トピックス 「どう変わる? 三宅島の自然」(樋口広芳 著)
  (雑誌『生物の科学 遺伝2002年1月号裳華房

特集 「三宅島の自然と噴火
  (雑誌『生物科学2001年2号農山漁村文化協会

リサーチ 「2000年三宅島火山の山頂陥没事件−過去のカルデラ形成噴火との比較
   「三宅島・神津島の地下で,何がおこっているのか−地震・火山活動の原因をさぐる

  (雑誌『科学2000年11号岩波書店

三宅島2000年噴火 −ヘリ観測編」 「三宅島2000年噴火 −酸性雨編
  「三宅島2000年噴火 −地下水観測編
  (雑誌『地質ニュース』 2002年6号・5号/実業公報社)


島魂(三宅島噴火情報)

三宅島2000-2002年噴火特集東京大学地震研究所 火山センター

三宅村役場&東京都三宅支庁 共同ホームページ

三宅島の噴火宇宙開発事業団 地球観測センター

火山・噴火/三宅島Lycosディレクトリ

火山情報気象庁

防災情報のページ内閣府 中央防災会議

独立行政法人 防災科学技術研究所

日本火山学会
日本自然災害学会


● 書籍 マグマ科学への招待 (ポピュラー・サイエンス235)
  谷口宏充 著/定価1870円(本体1700円+税10%)/裳華房  

 火山から流れ出る,赤く煮えたぎるマグマ.間近に見ることも手にとることもできない,マグマとはどのような物質なのか,その実態に迫ります.
 

● 書籍 蒸気爆発の科学 −原子力安全から火山噴火まで− (ポピュラー・サイエンス200)
  高島武雄・飯田嘉宏 共著/定価1870円(本体1700円+税10%)/裳華房  

 私たちが普段,何気なく目にしている「沸騰」という現象も,大きなスケールで起これば大規模な災害に結びつきます.海底火山の噴火にともなう深刻な被害は,このような「蒸気爆発」によるものであるといわれています.本書では,「蒸気爆発がなぜ起こるのか?」から説き起こし,防災上の注意点までを平易に解説します.



         

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