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裳華房メールマガジン (Shokabo-News)
バックナンバー(No.295;2014年1月号)

禁無断転載 ※価格表記は配信当時のままです。
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☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆   Shokabo-News No.295                2014/1/7   裳華房メールマガジン 2014年1月号   https://www.shokabo.co.jp/m_list/m_list.html ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 今回のご案内 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆  ◇ 新刊    大橋裕二 著 『結晶化学 −基礎から最先端まで−』  ◇ 松浦晋也の“読書ノート”(11)    川崎弘二 編著 『日本の電子音楽 増補改訂版』(愛育社)    田中雄二 著 『電子音楽 in Japan』(アスペクト)  ◇ 裳華房の“古書”探訪 (18)    早川康弌 著 『初等量子力學』[初版 昭和9年]  ◇ 裳華房 編集子の“私の本棚”(9)    寄藤文平 著 『元素生活』(化学同人)  ◇ 裳華房の売上げランキング(2013年下半期)  ◇ 新春“お年玉”プレゼント 応募要項 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ Shokabo-News 会員の皆様  明けましておめでとうございます.  本年も引き続きご愛読のほど宜しくお願い申し上げます.  11月号でご案内しました通り,今月号よりShokabo-Newsの配信を(原則とし て)月初めに変更いたしましたので,宜しくお願いいたします.  さて,今回のShokabo-Newsでは,昨年に引き続き,新春“お年玉”プレゼン トを実施します.抽選で5名様に裳華房オリジナル図書カード(3000円分)を 贈呈いたします.応募方法は本メールの末尾をご覧ください.今回の図書カー ドの図案は下記サイトをご覧ください. https://www.shokabo.co.jp/m_list/present.html  今号では,1月の新刊1点のほか,好評連載「松浦晋也の読書ノート」では 『日本の電子音楽 増補改訂版』(愛育社)と『電子音楽 in Japan』(アス ペクト)を,「裳華房の“古書”探訪」では早川康弌著『初等量子力學』(昭 和9年初版発行)を,「裳華房編集子の“私の本棚”」では『元素生活』(化 学同人)をご紹介します.  さらに,特別企画として,2013年下半期(7〜12月)の分野別売上げランキ ングも掲載しました.  ご意見・ご感想を info@shokabo.co.jp までお寄せいただければ幸いです. (Twitterをお使いの方はアカウント @shokabo まで)  ※書籍の価格は,定価(税込)ではなく本体価格表示にしています.  ★ お知らせ ★ 1.下記の大学生協書籍部にて裳華房フェアが開催中です.   https://www.shokabo.co.jp/fair/ 【関東】  ・茨城大学生協 水戸店(茨城県),2/7まで.  ・早稲田大学生協 理工店(東京都),1/31まで. 【北陸・中部】  ・新潟大学生協 五十嵐キャンパス書籍部(新潟県),1/31まで.  ・名古屋大学生協 Booksフロンテ(愛知県),1/31まで. 【関西】  ・大阪大学生協 豊中店(大阪府),1/10まで.  ・同志社大学生協 京田辺店(京都府),2/28まで. 2.「大学・短大・高専用教科書のご案内」   https://www.shokabo.co.jp/text.html 3.【講義担当の先生方へ】講義用 教授資料のご案内   https://www.shokabo.co.jp/textbook/text-tm.html ★★★★★★★★★★★★★★ 新 刊 案 内 ★★★★★★★★★★★★★★★ ☆☆ 1月刊行 ☆☆ ◆ 『結晶化学 −基礎から最先端まで−』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-3099-6.htm 大橋裕二 著/B5判/210頁/本体3100円+税/裳華房/ ISBN978-4-7853-3099-6  “原子・分子の構造の解明”から,“分子間相互作用の解明”へ──  この20年の間に急速に進歩を遂げ,ついに結晶中の分子の動きまで捉えうる ようになった現代「結晶化学」の経緯と到達点,および今後の可能性をあます ところなく伝える決定版. 【主要目次】1.物質の構造 2.結晶の対称性 3.結晶構造の解析法 4.イ オン結合とイオン半径 5.ファンデルワールス相互作用 6.電荷移動型相互 作用 7.水素結合 8.結晶多形と相転移 9.結晶構造の予測 10.固体中の 分子の運動 11.有機固相反応 12.有機結晶の混合による反応 13.結晶相 反応 14.中性子回折を利用した反応機構の解明 15.反応中間体の構造解析 ※2014年は「世界結晶年」です※ http://www.iycr2014.jp/ ─────────────────────────────────── 【裳華房 新刊一覧】 https://www.shokabo.co.jp/book_news.html 【ご購入のご案内】  https://www.shokabo.co.jp/order.html ─────────────────────────────────── ★★★★★ 【連載コラム】松浦晋也の“読書ノート” (第11回) ★★★★★ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  ノンフィクション・ライター/サイエンスライターの松浦晋也さんと鹿野司 さんに,お薦め書籍や思い出の1冊,新刊レビュー等をご執筆いただきます. 今月号のご担当は松浦晋也さんです.  ・バックナンバーはこちら→ https://www.shokabo.co.jp/column/ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ◇ 電子音楽の歴史をつづる大著2冊 ◇ ◆川崎弘二 編著 『日本の電子音楽 増補改訂版』(愛育社、2009年) ◆田中雄二 著 『電子音楽 in Japan』(アスペクト、2001年)  安政7年3月3日(太陰暦による、グレゴリオ歴では1860年3月24日)朝、江戸 城桜田門外において水戸藩を脱藩した浪士らが、登城途中の大老井伊直弼(18 15〜1860)の大名駕籠を襲撃し、井伊を殺害した。桜田門外の変である。幕閣 を束ねて開国政策を推し進め、反対派を弾圧した井伊が暗殺されたことにより、 日本は幕末の動乱期に入っていく。  暗殺の朝の天候は雪。 江戸は100万人以上の人口を抱える世界最大規模の都 市であったが、人々の朝の所作の生活音は、降り積もった雪が吸収してしまう。 無音の桜田門外に、襲撃者と警護の者の気合いと斬撃の音、やがて銀世界に広 がる血だまり――襲撃はほんの数分のことだったと推定されている。この世の 事とも思えぬ光景だっただろう。  今、警察庁と法務省に挟まれた桜田門交差点に立っても、襲撃の様子を思い 浮かべるのは困難だ。人も風景も150余年前とは大きく変化してしまっている。 が、一番違うのは環境音だろう。今の桜田門は絶え間ない自動車の騒音が響き 渡っている。産業革命以前には存在しなかった音だ。  自然音しか存在しなかった時代、人間は今よりずっと静かな環境に生活して いた。19世紀以降、様々な機械が生活空間に進出してきたことで、我々の“耳 の風景”は大きく変化した。機械の発する騒音(noise)が否応なしに生活を 浸食し始めたのだ。 noiseという単語の語源は、船酔いを意味するラテン語の nauseaなのだそうだ。それが「不快感」というより一般的な意味に変化し、や がて騒音という意味を与えられた。日本語の「騒音」がそれ専用の漢字一文字 ではないあたりも考え合わせると、そもそも産業革命以前の人々には騒音とい う概念が存在しないか、あっても希薄だったと推察できる。  騒音が生活の中に入ってくると、音の芸術である音楽も影響を受ける。楽器 を使って日常の音よりも美しい“楽音”を作り出し、楽音を組み合わせること で音楽とする――この考え方は、20世紀初頭イタリアの未来派という芸術運動 でひっくり返ることになった(坂本龍一のアルバム「未来派野郎」[1986]の 元ネタである)。画家であり作曲家でもあったルイージ・ルッソロ(1885〜19 47)は1913年に著書『騒音芸術(L'arte dei rumori)』で、 現実に満ちる騒 音こそは未来の音楽芸術へのインスピレーションの源泉であると主張。騒音を 発する楽器「イントナルモーリ」を試作した。  楽音に対して騒音を対置し、音楽の中に騒音を持ち込む、あるいはもっと進 んで騒音で音楽を構成するという流れは、20世紀音楽芸術の一大潮流となった。 今や、CDショップには「ノイズ・ミュージック」の棚すら存在する。そこには 「音楽は楽音でつくるもの」から「楽音・騒音を問わず、音により構成された 創作物が音楽である」という認識の変化があるわけだ。  ところで、騒音を音楽の素材とするためには、騒音を楽音同様に自由に扱う 技術的手段が必要になる。そこにはエレクトロニクスがもたらした新しい技術 が二つ関係してくる。ラジオ、そしてテープレコーダーだ。  コイルとコンデンサを使って空間を伝わってくる電波を周波数別に弁別する ラジオの検波回路は、エネルギーを入力すれば特定周波数を出力する共振回路 にもなる。若干共振周波数がずれた二つの共振回路の出力を重ねてうなり(ビ ート)を発生させ、スピーカーに入力すると、人間の可聴領域の周波数の音波 を発生させることができる。一番簡単な電子楽器だ。そして、フーリエ級数を 使えば、原理的にはどんな音波の波形であっても周波数の異なる正弦波の和と して表すことができる。かくして電子楽器は、「すべての音色を再現できる万 能楽器」として期待されるようになった。この技術開発の流れは、後のシンセ サイザーへとつながっていく。  一方、テープレコーダーは、録音した様々な現実の音を組み合わせて音楽を 作るという流れを生みだした。テープという媒体は、ハサミで切り、粘着テー プでつなぐことができたからだ。  当初この手法は“ミュジーク・コンクレート”(musique concrete:具体音 音楽)と呼ばれていた。第二次世界大戦直後からフランスの技術者ピエール・ シェフェール(1910〜1995)は、作曲家のピエール・アンリ(1927〜)と共同 で録音した音を切り貼りすることで音楽を創作する試みを開始した。最初の作 品「一人の男のための交響曲(Symphonie pour un homme seul)」は1951年に 公開演奏された(公開演奏というのも妙な話だが、要は公衆の面前で録音が再 生されたということ)。ただし、先駆者の常として、シェフェールはテープレ コーダーではなく、レコードに録音するソノシートを使って四苦八苦しつつ作 品を作っていたそうだ(すでにテープレコーダーはドイツで開発されていたが、 シェフェールは使用できる環境にいなかったらしい)。  1950年代から1960年代にかけて、電子音楽にせよミュジーク・コンクレート にせよ、主に芸術音楽の分野で発展した。1960年代半ばあたりから、芸術音楽 で開発された様々な手法がポピュラー音楽に流入しはじめる(例えばビートル ズの「アイ・アム・ザ・ウォルラス」など)。やがて、ロバート・モーグ (1934〜2005)がモーグ・シンセサイザーを開発・販売しはじめたことで、ポ ピュラー音楽のエレクトロニクス化は決定的となる。1980年代に入るとデジタ ル音声データを自由に加工しつつ組み合わせることができるサンプラーが出現 し、ラジオとテープレコーダーに起源をもつこの二つの技術は合体して今に至 っている。  ここでひとつ疑問が存在する。  初期の電子音楽では、放送局が設立した電子音楽スタジオというものが、大 きな役割を果たした。電子技術に精通した音楽家は稀だし、電子回路そのもの も高価だった。だから、放送局が資金を拠出し、専門の技術者が常駐する電子 音楽スタジオが必須だったのだ。そこで開発された技術は、放送メディアの表 現力強化に役立った。  それら初期の電子音楽スタジオがどこに立地したかというと、まずドイツ・ ケルンの西ドイツ放送(WDR)のケルン電子音楽スタジオ(1951年設立)、次 にイタリア・ミラノのイタリア国営放送局電子音楽スタジオ(1953年設立)、 そして東京のNHK電子音楽スタジオ(1953年に活動開始)……なぜかすべて 第二次世界大戦枢軸国側、ありていにいえば敗戦国に立地しているのである。 シェフェールで先行したはずのフランスでは、フランス国立視聴覚研究所(日 本のNHK技術研究所に相当する)内に1958年になってやっと電子音楽研究組 織「GRM」が設立される。 アメリカではさらに遅れて、1960年代に入ってから 放送局ではなく大学に電子音楽スタジオが作られはじめたのだった。  なぜに枢軸国?  さて、やっと本題。今回紹介する『日本の電子音楽 増補改訂版』(川崎弘 二編著、愛育社、2009年)と、『電子音楽 in Japan』(田中雄二著、アスペク ト、2001年)は、そんな電子音楽の歴史を追った力作だ。両書とも関係者への 膨大なインタビューが収録されており、それぞれ十分枕になるほどぶ厚い。が、 枕に使っている閑はないだろう。とにかく面白いのだ。  『日本の電子音楽』は、主に芸術音楽の側からのアプローチに焦点をあてて いる。戦前の萌芽的動きから押さえた日本の電子音楽の歴史に、実際にNHK 電子音楽スタジオなどで電子音楽を制作した作曲家など41人へのインタビュー、 さらに著者以下5名の音楽評論家による評論を収録し、電子音楽を“美を希求 する芸術のひとつ”としてとらえようとする姿勢が一貫している。  一方、『電子音楽 in Japan』は、「日本の」が「in Japan」となっている ことからもわかるように、より広く「世界史の中の日本の電子音楽」、あるい は「音楽全般の中のエレクトロニクス」と大づかみにしていこうという指向が 明確だ。歴史記述はバロック音楽から古典派、ロマン派と続く音楽史の記述か ら始まるし、芸術音楽に限らずポピュラー音楽や映画音楽にも多くの紙幅を割 いている。代表的な電子音楽のCDジャケットも掲載されており、「とにかくこ れ一冊で電子音楽のなんたるかをすべて網羅しよう」という意志を感じさせる。  両書を読んでいくと、技術と芸術という、一見もっとも遠く思える分野が、 電子音楽では激しくぶつかりつつも協働していたことが直接的に見えてくる。 芸術家は技術者がいなければ、自分なりの表現を達成できなかったし、技術者 も自分の技術を必要とする芸術家を得て、初めて自分の技量が役立つというこ とを実感できた。両者は激しく反発し合いながら、電子音楽という新しい芸術 分野を形成していった。  たとえば『日本の電子音楽』収録の作曲家・江崎健次郎(1926〜)へのイン タビューで、江崎はNHK電子音楽スタジオを見学に行った経験を「技師の連 中も我々のことを低く見ている(笑)。機械のことなんて知らないのに、お前 みたいなチンピラがやったってうまくいかない、みたいな顔つきを感じるわけ です。僻みかもしれませんが(笑)。」(同書351頁)と語る。 これが、その “技師”である佐藤茂(1936〜)へのインタビューでは「(極端に正確さを求 める作曲家がいたが、あまりうまくいかなかったというエピソードを語った後 に)だから極端に正確さを求めないで、技師に任せたものを最終的に作曲家が 構成し直すような形のほうがうまく行ったと思いますね」(同223頁)と逆照 射される。「ゲージュツ的要求とかうるさく言わずに、技術者に任せろ」とい うわけだ。  20世紀後半の半世紀、電子音楽の世界では芸術と技術が激しく絡み合い、歴 史を形作っていったのだった。  ぶ厚い両書を読み通して、先ほどの疑問「なぜに枢軸国?」に回答を与えて みよう。  まず、ヒトラーのナチス政権がリヒャルト・ワーグナー(1813〜1883)のよ うな極端にエモーショナルな音楽を好んだことへの反動から、戦後のドイツの 作曲家の間では、より理知的に音楽を構築しようという動きが生まれた。「開 始何秒後に何ヘルツの音が何デシベルで鳴る」といった即物的・抽象的な表現 に向かって振り子が振れたわけである。それに戦後の技術革新が重なって、ま ずケルンの電子音楽スタジオが成立した。  ケルンの最新動向は、毎年夏に南ドイツのダルムシュタットに作曲家たちが 集まって討論するダルムシュタット夏期新音楽講習会という会合を通じて全欧 州に伝わった。ところがドイツのやることに、歴史的にフランスは与しない。 だから、この動きがフランスに影響を及ぼすことはなかった。代わってケルン の影響を受け、ミラノで電子音楽スタジオが開設された。  ところで1951年から1952年にかけて、フランスのパリ音楽院コンセルヴァト ワールに、若き日の作曲家・黛敏郎(1929〜1997)が留学していた。黛はろく に授業に出ずに、ひたすら出歩いては主にフランスの最新動向を貪欲に吸収し た(彼はシェフェールの「一人の男のための交響曲」の公開演奏会も聴いてい る)。帰国後、黛は同じく作曲家の諸井誠(1930〜2013)と共にNHKに働き かけ、NHK電子音楽スタジオが設立された。ただし、この時期の事情はかな り錯綜していて、NHK電子音楽スタジオも「作品を作るぞ!」と作業しては 解体され、次の作品でまた集まりといった状態で、完全に常設の組織になるの は1955年以降である。  アメリカの場合は、コロンビア大学にウラジミール・ウサチェフスキー(19 11〜1990)という先駆者がいて、1950年代初頭から個人的に実験と実作を繰り 返していたことから、放送局ではなく大学が電子音楽研究の拠点となった。電 子音楽スタジオ設立の時期的なずれは、まがりなりにも資本の論理で動く放送 局と、アカデミックな大学との新技術への感度の差のせいだろう。  ところで、枕になるほどぶ厚い歴史書が2冊もあるのだから、日本の電子音 楽の歴史はほぼ完璧に記述されたのかといえばさにあらず。  あの時代、東京がやることに大阪は必ず反発し、対抗していた。「AK(JOAK: 東京のNHKのコールサイン)が電子音楽なるものに手を付けたそうだ」「我 らBK(JOBK:NHK大阪)も電子音楽せねば」というわけで、この時期大阪で も電子音楽スタジオが立ち上がっている。  JOBKは当時大阪在住だった気鋭の作曲家・松下眞一(1922〜1990)を起用。 松下はBKの支援を得て「電子音楽と声のための《黒い僧院》」(詩:北園克衛、 1959年)を作曲する。この曲は欧州でも公開され好評を博したというのだが、 JOBKにおける電子音楽への取り組み、その始まりから終末については両書とも 記述がほとんどない。  わずかに『日本の電子音楽』で、松下がその後もBKで電子音楽制作を継続し たこと、そして彼が1965年にドイツに移住したため、JOBKでの電子音楽への取 り組みは終了したことが書かれているだけである。そこには当然、松下と組ん だ技術者がいたはずなのに。  こういう東京偏重は、本当は好ましくないのだが……。 【今回紹介した書籍】 ◆川崎弘二 編著 『日本の電子音楽 増補改訂版』   A5判/1116頁/本体4300円+税/2009年3月発行/愛育社   ISBN 978-4-7500-0354-9   http://aiikusha.jimdo.com/ ◆田中雄二 著 『電子音楽 in Japan』   A5判/592頁/本体3600円+税/2001年12月発行/アスペクト   ISBN 978-4-7572-0871-1   http://www.aspect.co.jp/np/isbn/9784757208711/ 【松浦晋也さんのプロフィール】 ノンフィクション・ライター.1962年東京都出身.現在,PC Online で「人と 技術と情報の界面を探る」,日経トレンディネットで「“アレ”って何? 読 めばわかる研究所」を連載中.主著に『われらの有人宇宙船』『増補 スペー スシャトルの落日』『恐るべき旅路』『コダワリ人のおもちゃ箱』『のりもの 進化論』などがある. ブログ「松浦晋也のL/D」 http://smatsu.air-nifty.com/       「松浦晋也の“読書ノート”」 Copyright(C) 松浦晋也,2014  次号は鹿野 司さんにご執筆いただきます.どうぞお楽しみに! ※本コラムは本メール配信約1か月後を目安に裳華房Webサイトに掲載します. https://www.shokabo.co.jp/column/ ───【裳華房のお役立ちサイト】─────────────────── ◎ 研究所等の一般公開(1/7更新) https://www.shokabo.co.jp/keyword/openday.html ◎ 学会主催 一般講演会・公開シンポジウム(1/7更新) https://www.shokabo.co.jp/keyword/openlecture.html ◎ 若手 春・夏・秋・冬の学校(1/7更新) https://www.shokabo.co.jp/keyword/wakateschool.html ─────────────────────────────────── ★★★★★★ 【連載コラム】裳華房の“古書”探訪(第18回)★★★★★★★ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  弊社の起源は,江戸時代,伊達藩の御用板所であった「仙台書林 裳華房」 に遡ります.ここでは,科学書の出版に力を入れ始めた大正時代から昭和時代 に刊行された書籍の中から毎回1冊ずつ取り上げて紹介いたします. 【バックナンバー】 https://www.shokabo.co.jp/oldbooks/index.html 【裳華房の歴史】  https://www.shokabo.co.jp/history.html 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ◆ 早川康弌 著 『初等量子力學』[初版 昭和9年]  本書は,科学哲学などの分野でも業績を残された,数学者の早川康弌先生 (東京工業大学名誉教授,[*1])が1934年(昭和9年)に出版した量子力学 の本です.ここで驚くべきことは,早川先生は1911年(明治44年)生まれであ ることから,本書は,先生が23歳という若さの時に出版したということです. そのこともあってか,本書の扉にある先生の肩書きは「理學士」 となってい ます.ちなみに,出版当時の値段は壹圓八拾錢でした.  早川先生が本書を執筆するに至った動機については,本書の「序」に次のよ うに記されています.  「……,量子力學は重要な部門であり,且つ高級の良文献には乏しくない   にもかかはらず,適當な基礎的初歩的な書物に至つては,著者寡聞にし   てどこの國にもあるを聞かない。これ,著者が自己の不勉強を顧みず本   書をかくに至つた動機である。」  本書の詳しい目次については, 国立情報学研究所のWebcat Plusにも掲載さ れていますので[*2]省かせていただきますが,附録を除いたわずか92ページ の本文で,量子力学を初めて学ぶ人たちを対象に,その基礎的な事項について 解説しています.  本書の目的について,早川先生は同じく「序」で次のように記しています.  「本書の目的は,大した豫備知識を想定せずに,量子力學の基礎的な考へ   をわかり易く説明するにある。卷末に附した長い附録を豫め讀めば,高   校卒業程度の數學物理學を知つてゐるだけで本書が理解出來る様にかい   た積りである。」  このコラムを書いている私自身が気づいた本書の特徴を挙げるとすれば,  1.本文中の重要語句には肩に番号が付けられ,脚注で,その語句の英語と   ドイツ語の表記が併記されていること  2.導出が難しいと思われる式については,式の展開を丁寧に記述している   こと  3.やや難しい内容と思われる節については,読み飛ばしてもよいことを明   記していること  4.本文92ページに対して,附録が70ページもあること  5.「量子力學と哲學」という章を設けていること  6.「附 教科書の紹介」において,先生自身の個人的な見解を明快に記し   ていること といったあたりかと思います.  1〜4については,早川先生の教育的配慮に基づくものであることが窺えま す.特に長い附録の意図は,先の「序」の一部に先生ご自身が書かれていると おりです.5番目については,一般に量子力学の初学者向けの本では,量子力 学の哲学的な議論は初学者を却って惑わすことになるとの配慮から触れないこ とが多いのですが,本書ではこの部分にこそ,早川先生らしさが如実に現れて いるのではないかと思いました.  そして,6番目の 「附 教科書の紹介」 は,いわゆる参考図書・関連図 書の紹介に当たるものですが,特に先生の辛口コメントは,(語弊があるかも しれませんが)読んでいてなんだか気持ちが良いとも感じました。参考までに そのPDFを以下に掲載いたしますので,ご覧ください. 「附 教科書の紹介」 https://www.shokabo.co.jp/oldbooks/1934hayakawa-qm/appendix1.pdf  なお弊社では,本書の出版から11年後の1946年に,『マトリックス概説』と いう本も早川先生に執筆していただいています.  また本書は,国立国会図書館のデジタルアーカイブで公開(館内閲覧限定) されています. http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1125805 [脚注]  *1 早川 康弌 (Webcat Plus)   http://webcatplus.nii.ac.jp/webcatplus/details/creator/9201.html  *2 『初等量子力學』(Webcat Plus)   http://webcatplus.nii.ac.jp/webcatplus/details/book/449354.html ◆『初等量子力學』   早川康弌 著/四六判上製/180頁/裳華房/初版 昭和9年[1934年] ※記述の誤りなど,お気づきの点がありましたら m-list@shokabo.co.jp まで  御連絡ください. ─────────────────────────────────── 【裳華房 分野別書籍一覧】 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/0000.html 【正誤表などサポート情報】 https://www.shokabo.co.jp/support/ ─────────────────────────────────── ★★★★【連載コラム】裳華房 編集子の“私の本棚”(第9回) ★★★★★ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  編集部の有志が月替わりで,思い出の一冊やお薦めの書籍などを語ります. 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ◇ “元素キャラクター”による脱力ワールド ◆『元素生活』(寄藤文平 著,化学同人)  編集者のCです.  今回は,“化学式や文章だらけの啓蒙書はちょっと”という方にお勧めの 書籍をご紹介します.  その書籍の名は,“元素生活”.私は,どこかの通販雑誌のタイトルを思 い浮かべてしまいましたが,れっきとした,元素に関する啓蒙書です.著者 である美大出身のイラストレーターが,小難しくてお堅い内容をうまい具合 に調理して,化学が苦手な方にもスーイスイと読ませてしまいます.  この本の真骨頂(?)は,それぞれの元素の性質を表すために,一つ一つ の元素を擬人化したことでしょう.これを本書では“元素キャラクター”と 呼び,一覧にして多くのページを割いています.どうやってキャラ分けをし ているかは,以下のようにしています.  周期表を見ていただければわかるように,元素は同じような性質が繰り返 され,“族”というものでグループ分けしています.化学の用語でいえば “ハロゲン”とか“希ガス”とかいう用語をご存知でしょうか?“ハロゲン” は族でいうと“第17族”,“希ガス”は“第18族”です.これを擬人化した 元素の髪型に喩えています.(例えば,希ガスの元素の髪型は,独立独歩の フワフワヘアーということで“アフロヘアー”で表現しています.)  また,発見された年代を擬人化した元素の歳として(例えば,1900年代以 降に発見されたものは“おしゃぶり”をくわえた赤子),主な使用用途を擬 人化した元素が着る服として(例えば,必須ミネラルの元素はパンツ一丁の 健康優良児風に),常温での元素の状態を擬人化した元素の体(例えば,常 温で液体のものは『遊星から来た物体X』風に)でそれぞれ表現しています.  また,元素の値段ランキングや人間の原価といった,読んだ後に他人に教 えたくなるような元素のトリビアや,生きていく上で必須の“生体金属元素”, いわゆる“ミネラル”についての簡単な基礎知識も載っています.  字面だけでは非常にわかりづらいので,実際に手に取って読んでいただけ ればと思いますが,程よくおふざけが入っていて,かつ著者の独特のタッチ のイラストも相まって,非常によくわかる構成となっています.  “元素なんてどうだっていいじゃん.”でも,読んでみるとなかなか面白 い.ずんずん吸い込まれていく.たまに笑って,そしてためになる.そんな 書籍をお求めの方!ぜひ手にとって読んでみて下さい.その脱力ワールドに 浸れること,うけあいですよ! ◆『元素生活 Wonderful Life With The ELEMENTS』   寄藤文平 著/A5変形判/208頁/本体1300円+税/2009年7月刊行/   化学同人/ISBN978-4-7598-1167-4   http://www.kagakudojin.co.jp/book/b50191.html ───【裳華房のお役立ちサイト】─────────────────── ◎ 自然科学系の雑誌一覧 −最新号の特集等タイトルとリンク−(12/26更新) https://www.shokabo.co.jp/magazine/  ◎ 大学・研究所・学協会の住所録とリンク https://www.shokabo.co.jp/address.html ─────────────────────────────────── ★★★★★★ 裳華房の分野別売上げランキング(2013年下半期) ★★★★★ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  2013年下半期(7〜12月)における裳華房の主要4分野の売上げランキング です.数学と物理学は小分野に分けて各3位まで,化学と生物学はそれぞれ10 位まで記しています.なお,採用品としての注文分は除きました. https://www.shokabo.co.jp/m_list/ranking2013-2.html 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  ※各書籍の内容等は分野名の下に記載したリンク先をご参照ください※  ◆◆◆【数学分野】◆◆◆  https://www.shokabo.co.jp/m_list/ranking2013-2.html#math    ◆【線形代数】 1.『数学選書1 線型代数学』 佐武一郎 著 2.『線形代数(改訂改題)』 矢野健太郎・石原 繁 編 3.『線形代数入門』 内田伏一・高木 斉・剱持勝衛・浦川 肇 共著    ◆【微分積分】 1.『微分積分(改訂版)』 矢野健太郎・石原 繁 編 2.『続 微分積分読本 −多変数−』 小林昭七 著 3.『微分積分読本 −1変数−』 小林昭七 著    ◆【解析学】 1.『数学選書4 ルベーグ積分入門』 伊藤清三 著 2.『基礎解析学(改訂版)』 矢野健太郎・石原 繁 共著 3.『基礎解析学コース 微分方程式』 矢野健太郎・石原 繁 共著    ◆【確率・統計】 1. 『新統計入門』 小寺平治 著 2. 『数学シリーズ 数理統計学(改訂版)』 稲垣宣生 著 3. 『統計学入門』 稲垣宣生・山根芳知・吉田光雄 共著    ◆【数学:その他】 1.『曲線と曲面の微分幾何(改訂版)』 小林昭七 著 2.『数学シリーズ 集合と位相』 内田伏一 著 3.『曲線と曲面 −微分幾何的アプローチ−』 梅原雅顕・山田光太郎 共著  ◆◆◆【物理学分野】◆◆◆  https://www.shokabo.co.jp/m_list/ranking2013-2.html#phys    ◆【力学】 1. 『フィジックスライブラリー 解析力学』 久保謙一 著 2.『大学生のための力学入門』 小宮山 進・竹川 敦 共著  3.『物理学選書14 流体力学(前編)』 今井 功 著    ◆【電磁気学】 1.『工学の基礎 電気磁気学』 松本 聡 著 2.『基礎物理学選書21 電磁気学演習』 小出昭一郎 編 3.『テキストシリーズ 電磁気学』 兵頭俊夫 著    ◆【熱学・統計力学】 1.『大学演習 熱学・統計力学(修訂版)』 久保亮五 編 2.『熱力学』 三宅 哲 著 3.『基礎物理学選書18 熱学演習−熱力学』 原島 鮮 著    ◆【量子力学】 1. 『基礎物理学選書5A 量子力学T(改訂版)』 小出昭一郎 著 2.『基礎からの量子力学』 上村 洸・山本貴博 共著 3. 『テキストシリーズ 量子力学』 小形正男 著    ◆【物理学:その他】 1. 『テキストシリーズ 振動・波動』 小形正男 著 2.『物理学(三訂版)』 小出昭一郎 著 3.『テキストシリーズ 物理数学』 松下 貢 著  ◆◆◆【化学分野】◆◆◆  https://www.shokabo.co.jp/m_list/ranking2013-2.html#chem 1. 『理工系のための化学入門』 井上正之 著 2.『化学はこんなに役に立つ −やさしい化学入門−』 山崎 昶 著 3.『無機化学 −基礎から学ぶ元素の世界−』 長尾宏隆・大山 大 共著 4. 『新・元素と周期律』 井口洋夫・井口 眞 共著 5. 『化学の基本概念 −理系基礎化学−』 齋藤太郎 著 6.『量子化学(上)』 原田義也 著 7.『化学熱力学(修訂版)』 原田義也 著 8. 『コ・メディカル化学 −医療・看護系のための基礎化学−』      齋藤勝裕・荒井貞夫・久保勘二 共著 9. 『基礎無機化学(改訂版)』 一國雅巳 著 10. 『入門 新高分子科学』 大澤善次郎 著  ◆◆◆【生物学分野】◆◆◆  https://www.shokabo.co.jp/m_list/ranking2013-2.html#bio 1. 『新・生命科学シリーズ 植物の生態 −生理機能を中心に−』      寺島一郎 著 2. 『新・生命科学シリーズ 遺伝子操作の基本原理』      赤坂甲治・大山義彦 共著 3. 『しくみからわかる 生命工学』 田村隆明 著 4. 『ヒトを理解するための生物学』 八杉貞雄 著 5. 『新・生命科学シリーズ 植物の系統と進化』 伊藤元己 著 6. 『医薬系のための生物学』 丸山 敬・松岡耕二 共著 7. 『エントロピーから読み解く生物学 −めぐりめぐむ わきあがる生命−』      佐藤直樹 著 8. 『新・生命科学シリーズ 動物の系統分類と進化』 藤田敏彦 著 9. 『新・生命科学シリーズ 植物の成長』 西谷和彦 著 10. 『バイオサイエンスのための 蛋白質科学入門』 有坂文雄 著 ★★★★★★★★ 新春“お年玉”プレゼント 応募要項 ★★★★★★★★  裳華房オリジナル図書カード(3000円分)を抽選で5名様にプレゼントいた します.以下の要領でご応募ください.  ※応募受付は終了しました※  <手順>   1.応募用アドレス → m-list@shokabo.co.jp   2.メールの件名  → Shokabo-News 2014年新春プレゼント   3.メールの本文  → 以下を明記してください.               1)送付先のご住所とお名前(必須)               2)Shokabo-Newsへのご意見・ご感想(任意)   4.以上を再確認! → 送信  応募締切は,2014年1月20日(月)です.  応募の際は,必ずShokabo-Newsの登録アドレスからご送信ください(登録ア ドレス以外からの応募は無効になります).  応募の際に取得した個人情報は,抽選および当選者へのプレゼント賞品の送 付のみに利用いたします.  また,当選者のお名前(名字と都道府県名のみ)は,Shokabo-News 2月号で 発表いたします.あらかじめご了承ください.  なお,賞品の発送は2月中を予定しています.  たくさんのご応募をお待ちしております. ─────────────────────────────────── 次号は2014年2月3日の配信予定です.どうぞお楽しみに! \\(^o^)// ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ ★ 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