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  第11回 もっとバラバラ算  

谷口 隆    

 連載コラムの第8回は,数を桁でバラバラにして考える算法「バラバラ算」の紹介だった.この,数をバラすことで起きる不思議は,どうやら他にもいろいろあるらしい.今回は,第8回とは少し違ったバラバラ算を披露してみたい.

◇   ◇   ◇

 $\dfrac13$ を小数表示すると $3$ が繰り返される.

$\dfrac13$ = $0.33333333333333\cdots$

$\dfrac17$ なら

$\dfrac17$ = $0.14285714285714\cdots$

で,これは $142857$ の繰り返しになっている.この繰り返しの単位を循環節という.唐突かも知れないけれど,この $6$ 桁の循環節 $142857$ を,真ん中で二つに分けて足してみよう.すると…
$$ \begin{array}{cc} &142\\ + &857\\ \hline &\textcolor{blue}{999} \end{array} $$ おっと, $9$ が並んだぞ.
 これはたまたまなのだろうか? 他の場合でも試してみよう. $\dfrac{1}{17}$ を例に取る.小数表示は

$\dfrac 1{17}$ = $0.058823529411764705882\cdots$
イラスト

となって,循環節は $0588235294117647$ の $16$ 桁だ.真ん中で $8$ 桁ずつに分け,足せば
$$ \begin{array}{cc} &05882352\\ + &94117647\\ \hline &\textcolor{blue}{99999999} \end{array} $$ ね, $9$ ばかりきれいに $8$ 個並びました.ぜひ皆さんも一度,割り算の筆算を習得した頃の気持ちに戻って,手計算でお試しあれ.

◇   ◇   ◇

 これはいつでも起きる現象なのだろうか?と思うと,例えば

$\dfrac 1{41}$ = $0.024390243902439\cdots$

の循環節は $02439$ の $5$ 桁で,「真ん中で二つに分ける」ことができない.だからまず,循環節が偶数桁のときしか問題にできない話だ.でも逆に,分母が素数で循環節が偶数桁なら,いつでもこのことが成り立つ.真ん中で真っ二つに割って足すと, $9$ ばかりが並ぶのだ.なぜだろうか?

◇   ◇   ◇

 このような問題は,タネあかしを聞かずに自分であれこれ考えるのが楽しい面もある.でも,そう言ってここでコラムが終わってしまってはなんだかツレないので, $\dfrac17$ の $142857$ を例にとって,一緒に理由を考えてみよう.

(a)

 そもそも,循環節が $142857$ であるとはどういうことだろう?  $1\div7$ という割り算の筆算を思い出してほしい.実際に筆算をしてみれば,それは

『 $1000000$ を $7$ で割ると,商が $142857$ で余りが $1$ 』

という意味だと分かるだろう.式にすれば $10^6$ = $7$ $\cdot$ $142857$ +$1$ ということだ.書き換えると

$142857$ = $\dfrac{10^6-1}{7}$

となる.これで,循環節が $142857$ であることを式にできた.


(b)

 一方,循環節 $142857$ の $142$ + $857$ = $999$ という性質はどう考えたらよいだろうか? 第8回のバラバラ算でも考えたように,真ん中で区切って $142$ と $857$ になるということは,

$142857$ = $142\cdot10^3$ + $857$

と書けるということだ.和が $999$ という性質に注目するために, $A$ = $142$, $B$ = $857$ と文字に置き換えてしまって,$A$ + $B$ = $999$ であることだけに注目しよう.すると,

$\begin{align*} 142857&=A\cdot10^3+B\\ &=1000A+(999-A)\\ &=999A+999=999\cdot (A+1) \end{align*}$

となった.つまり, $142857$ が $999$ × □ と分解されるのがポイントだということになる.ここの部分だけなら,□ はなんでもよい.例えば

$999$ × $257$ =$256743$

で,分けて足せば $256$ + $743$ = $999$ だ.他でも

$999$ × $147$ = $146853$,
$999$ × $625$ = $624375$,
$999$ × $399$ = $398601$,
$\vdots$

と,分けて足すと $999$ になる.電卓を叩くなどして, $999$ × □ を実験していただきたい.


(c)

 (a)と(b)を繋ごう.(b)により問題は, $142857$ がなぜ $999$ × □ の形になっているのか?となった.そう考えながら(a)をよくよく見つめると,

$142857$ = $\dfrac{10^6-1}{7}$ = $\dfrac{(10^3-1)(10^3+1)}7$

に思い至る. $999$ = $10^3$−$1$ だからだ.さて,分母の $7$ は $10^3$−$1$ と $10^3$+$1$ のどちらを割り切るか.仮に $10^3$−$1$ を割り切るなら,(a)の理屈から $\dfrac17$ の循環節は $3$ 桁になってしまうだろう.だから $10^3$−$1$ は $7$ で割り切れず, $10^3$+$1$ の方が $7$ で割り切れるはずだ.かくして

$142857$ = $(10^3-1)$ $\cdot$ $\dfrac{10^3+1}7$ = $999$ $\cdot$ $143$

と,分解の説明がついた.真ん中で分けて足すと,(b)により $9$ だけが並ぶのだ.


 桁数の多い $\dfrac{1}{17}$ の循環節 $0588235294117647$ でも,根拠は全く変わりない.分けて足すと $9$ が $8$ 個並ぶのは,

$ \begin{align*} \text{($16$ 桁の循環節 $058\cdots647$ )} &=\frac{10^{16}-1}{17} =(10^8-1)\cdot\frac{10^8+1}{17} \end{align*}$

から説明される(後半の $\dfrac{10^8+1}{17}$ は割り切れて整数になる).細部を確かめてほしい.

◇   ◇   ◇

 数の法則は実に律儀だ. $\dfrac{1}{61}$ の循環節は $60$ 桁,書くと

$016393442622950819672131147540983606557377049180327868852459$

である.さてさて,真ん中で区切って加えてみると…

$\begin{array}{cc} &016393442622950819672131147540\\ + &983606557377049180327868852459\\ \hline \end{array} $

◇   ◇   ◇

 $\dfrac13$ を小数に直すと, $3$ が繰り返される.多くの人が初めて出会う無限小数は,きっとこれだろう. 子供のころ $3$ 個パック $100$ 円のお菓子を見て, $1$ 個あたり $33.33\cdots$ 円?と,ちょっと不思議な気分になったことはないだろうか.
 ところで,この $3$ の並びについて,例えば $333$ × $333$ を計算してみると $110889$ で,どれほど特徴的か微妙なところだ.しかし,片方の値を $1$ 増やすと,

$333$ × $334$ = $111222$

と,なんとも綺麗な数が出てくる.ぜひ $3333$ × $3334$ や $33333$ × $33334$ を試してほしい.この仕組みは説明がつくだろうか.また,類例はあるだろうか.

(2016/7/6掲載) 
(イラスト:マエカワアキオ) 


次回(第12回)は8月3日(第1水曜日)に掲載いたします.どうぞお楽しみに!

ご感想を電子メールでお送りいただければ幸いです.送付先アドレス info@shokabo.co.jp


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執筆者紹介

大野 泰生
おおの やすお 
1969年生まれ.東北大学大学院理学研究科数学専攻教授. 専門は整数論,多重ゼータ値など.趣味は美味しいものを探すこと. 一般向け著書に『白熱! 無差別級数学バトル』(共編,日本評論社)がある.

谷口 隆
たにぐち たかし 
1977年生まれ.神戸大学大学院理学研究科数学専攻准教授. 専門は整数論,概均質ベクトル空間.趣味は中国茶. ブログ「びっくり数学島」でも数学について綴っている.




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