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  第15回 平面に目盛られた数  

谷口 隆    

 平面に複素数を目盛るという考え方がある.要点を箇条にすると次の通りだ.

(イ)

$2$ 乗すると $-1$ になるような数 $i$ があると想像する.つまり $i^2$ = $-1$.

(ロ)

$x$,$y$ を実数として, $x+yi$ という形で表される数(=複素数)の世界を考える.

(ハ)

これまで $xy$ 平面上で $(x,y)$ という実数の組を表していた点が, $x+yi$ という複素数を表していることにする.そのように考えたときの平面を複素数平面という. $x$ 軸を実軸, $y$ 軸を虚軸という.


図1

 第一印象で物事を判断してはイカンと言われる.しかしこれは,『どう控えめに見積もってもなお,受け入れがたい』――それが“常識的な感覚”ではないだろうか.上記イ・ロ・ハの考え方に習熟し,ひとたび馴染めば,

「実数を直線に目盛って数直線ができる.この考え方をまっすぐに拡張し,複素数を平面に目盛って,複素数平面とするのだ.」

イラスト と確信に満ちて話すようになる.でも,初めて知ったときにこんなことを言われても戸惑うばかりだろう.どうすれば,このイ・ロ・ハを真面目に検討してみよう,という積極的な心持ちになれるだろうか.今回は方程式

$x^n$ = $1$

をいくつかの $n$ で考え,解を複素数平面に目盛ってみることで,このとびっきり斬新な着想の端緒を探ってみたい.

◇   ◇   ◇

(a)

 手始めに, $4$ 以下の $n$ で $x^n-1$ = $0$ を解いてみよう.

(i) $n$ = $1$ のときは何をするでもなく, $x$ = $1$ が解だ.

(ii) $n$ = $2$ なら $x^2-1$ = $(x-1)$ $(x+1)$ = $0$ から,解は $x$ = $1$, $-1$ となる.

(iii) $n$ = $3$ なら $x^3-1$ = $(x-1)$ $(x^2+x+1)$ = $0$ で, $x$ = $1$ または $x^2+x+1$ = $0$ である.後者は $2$ 次方程式の解の公式から

$x$ = $\dfrac{-1\pm\sqrt{1^2-4}}{2}$ = $\dfrac{-1\pm\sqrt{-3}}{2}$ = $-\dfrac{1}{2}\pm\dfrac{\sqrt{3}}2i$

となって,これと $x$ = $1$ を合わせた $3$ 個が解だ.

(iv) 最後に $n$ = $4$ のときは, $i^2$ = $-1$ に注意して,

$x^4-1$ = $(x^2-1)$ $(x^2+1)$ = $(x^2-1)$ $(x^2-i^2)$
= $(x-1)$ $(x+1)$ $(x-i)$ $(x+i)$

だから, $x^4-1$ = $0$ の解は $x$ = $1$ , $-1$ , $i$ ,$-i$ の $4$ 個になる.

 以上の $n$ = $1$ , $2$ , $3$ , $4$ について, $x^n$ = $1$ の解を複素数平面に目盛ってみよう.

図2

 どうだろう.何か規則が見えるだろうか.


(b)

 もう少し先の $n$ まで進んでみたい.

(i) となるとまずは $n$ = $5$ だが, $x^5$ = $1$ は少し解きにくい.面白い方程式なので補遺で扱うこととし,ここでは $n$ = $6$ に進もう. $x^6-1$ = $(x^3-1)$ $(x^3+1)$ = $0$ から, $x^3-1$ = $0$ または $x^3+1$ = $0$ である.前者は $n$ = $3$ のときそのものだ.後者については $x^3+1$ = $(x+1)$ $(x^2-x+1)$ だから,やはり解の公式から計算できて,$x$ = $-1$ , $\dfrac12\pm\dfrac{\sqrt3}2i$ と新たに $3$ 個の解が出てくる.

(ii) ほかに解けるケースがあるだろうか. $n$ = $7$ の $x^7$ = $1$ は一筋縄ではいかないが, $n$ = $8$ は手立てがある. $x^8-1$ = $(x^4-1)$ $(x^4+1)$ で, $x^4-1$ = $0$ は $n$ = $4$ で解いたので $x^4+1$ = $0$ を解こう.一計を案じ,

$ \begin{align*} x^4+1 &=x^4+2x^2+1-2x^2\\ &=(x^2+1)^2-(\sqrt2x)^2\\ &=(x^2+\sqrt2x+1)(x^2-\sqrt2x+1) \end{align*} $

と変形すれば, $2$ 次方程式 $2$ 個になる. $x^2-\sqrt2x+1$ = $0$ からは

$x$ = $\dfrac{\sqrt2\pm\sqrt{2-4}}2$ = $\dfrac{\sqrt2\pm\sqrt{2}i}2$ = $\dfrac{1\pm i}{\sqrt2}$

で,同様に $x^2+\sqrt2x+1$ = $0$ からは $x$ = $\dfrac{-1\pm i}{\sqrt2}$ が得られる.

 $n$ = $6$, $8$ で $x^n$ = $1$ の解を複素数平面に目盛ってみよう.

図3

 どうだろう.何やら図形が見えないだろうか?――そう, $n$ = $6$ では点を順に結んでいくと正六角形ができる.そして, $n$ = $8$ なら正八角形じゃないか!


(c)

 ここまでの話(a),(b)をまとめてみよう.(b)の正六角形と正八角形は,いずれも,原点を中心とする半径 $1$ の円(単位円という)に内接している.

図4

だから,点を結んでいく代わりに単位円を書き,この円周を $6$ 等分, $8$ 等分していると言い換えてもよい.そこで,(a)の $n$ = $1$, $2$, $3$, $4$ でも同じように単位円を書いてみよう.

図5

やはり円周を $n$ 等分していることが見て取れる.これだけの $n$ で成り立っているのだから,一般に,

 $(\bigstar)$ 『 $x^n$ = $1$ の解 $n$ 個はすべて単位円上にあり,さらにこの円周を $n$ 等分する』

のではないだろうか?と考えることができるだろう.


(d)

 $(\bigstar)$ を,何かほかの $n$ で検証できないだろうか.座標のことを思い起こすと, $n$ = $9$, $10$, $11$ は簡単でないかも知れないが, $n$ = $12$ だったら計算できるかもしれない.やってみよう. $x^{12}-1$ = $(x^6-1)$ $(x^6+1)$ で, $x^6-1$ = $0$ は $n$ = $6$ のときに解いたので, $x^6+1$ = $0$ を解く. $x^6+1$ = $(x^2+1)$ $(x^4-x^2+1)$ で, $x^2+1$ = $0$ からは $x$ = $\pm i$ が出る. $x^4-x^2+1$ = $0$ の方は $n=8$ のときのやり方をまね,

$ \begin{align*} x^4-x^2+1 &=x^4+2x^2+1-3x^2\\ &=(x^2+1)^2-(\sqrt3x)^2\\ &=(x^2+\sqrt3x+1)(x^2-\sqrt3x+1) \end{align*} $

として解く.複号任意で $x$ = $\pm\dfrac{\sqrt3}2\pm\dfrac12i$ だ.以上出揃った $12$ 個の解を複素数平面に目盛ると $・・・・・・$

図6

やっぱり, $(\bigstar)$ は成り立っていた!

 イ・ロ・ハの考え方には,どうやら何か未知の可能性が秘められているようだ.ここまでくれば,黙って見過ごすには忍びなくなってくるのではないだろうか. $i$ は数直線上にはいなかったが,複素数平面上にちゃんと「いる」のかも知れない.

◇   ◇   ◇

 $(\bigstar)$ は,ド・モアブルの公式

$(\cos\theta+i\sin\theta)^n$ = $\cos n\theta+i\sin n\theta$

を使うと証明できる.この公式は複素数の冪乗を扱っているが,一般に複素数の加減乗除は,複素数平面で単純明快な解釈がある.今となってはそれは,高校の「数学 III 」で扱われるほどに“常識的な内容”になってしまった.加減乗除や冪乗の段階では,複素数平面を考える積極的な意義はまだやや曖昧だが,そのポテンシャルは垣間見えるだろう.もう一足歩みを進めた複素関数論(本連載第 $5$ 回「素数定理を紐解く〜後編〜」でも紹介した“複素数の微積分”の理論)で,その真価は明らかになる.
ガウスの肖像画  この複素数の平面表示は現在では,数学史上の決定的な進歩の一つに数えられている.でも $200$ 年余り時代を遡ると,複素数の立場は数学者の間でもまだまだ不安定だった.ガウスは時代に先んじて平面表示の価値を認識していたが, $1800$ 年ごろのガウスは研究成果を発表するとき,無用の論争を避けるため,複素数平面の思考を表面から消し,多くを実数の言葉に翻訳して発表していた.高校の教科書に複素数平面が載っていることは,人智の大きな進歩であるとともに,人の思い込みの儚さや常識の移ろいを,表すものでもあるのだろう.

(2017/2/1掲載) 
(イラスト:マエカワアキオ) 




【補遺】
 $n=5$ のときの $x^5$ = $1$ を解いてみよう. $x^5-1$ = $(x-1)$ $(x^4+x^3+x^2+x+1)$ だから, $x^4+x^3+x^2+x+1$ = $0$ を解けばよい. $n$ = $8$ のときの技を用いて,

$ \begin{align*} x^4+x^3+x^2+x+1 &=\left(x^2+\frac12x+1\right)^2-\frac54x^2\\ &= \left(x^2+\frac{1+\sqrt5}2x+1\right) \left(x^2+\frac{1-\sqrt5}2x+1\right) \end{align*} $

とすると,解を求められる.

$x$ = $\dfrac{-1-\sqrt5}{4}\pm\dfrac{\sqrt{10-2\sqrt5}}4i$ , $\dfrac{-1+\sqrt5}{4}\pm\dfrac{\sqrt{10+2\sqrt5}}4i$

これと $x$ = $1$ を合わせた $5$ 個が, $x^5$ = $1$ の解だ.
 $\cos72^\circ$ = $\dfrac{-1+\sqrt5}{4}$, $\sin72^\circ$ = $\dfrac{\sqrt{10+2\sqrt5}}4$ などから, $x^5$ = $1$ の解が単位円を $5$ 等分していることが分かる.同様の方法で $x^{10}-1$ = $0$ の解を求めることもできて,この場合は解が単位円を $10$ 等分していることが分かる.

(2017/2/1掲載) 



次回(第16回)は2017年4月5日(第1水曜日)に掲載いたします.どうぞお楽みに!

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「数学者的思考回路」 Copyright(c) 谷口 隆,2017

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執筆者紹介

大野 泰生
おおの やすお 
1969年生まれ.東北大学大学院理学研究科数学専攻教授. 専門は整数論,多重ゼータ値など.趣味は美味しいものを探すこと. 一般向け著書に『白熱! 無差別級数学バトル』(共編,日本評論社)がある.

谷口 隆
たにぐち たかし 
1977年生まれ.神戸大学大学院理学研究科数学専攻准教授. 専門は整数論,概均質ベクトル空間.趣味は中国茶. ブログ「びっくり数学島」でも数学について綴っている.


 

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